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ミュージカルについてもっともよく挙がる不満のひとつは、台本が薄っぺらで、数々の歌を並べるための方便にしかなっていないというものだ。だが『Wicked』は、それとは反対の問題を抱えている。すなわち、プロットは素晴らしいが、歌が邪魔になっているのだ。
グレゴリー・マグワイアによる同名小説(邦題は『オズの魔女記』)を原作とする『Wicked』は、ドロシーがオズの国を訪れる以前に、良い魔女グリンダと西の悪い魔女エルファバの間で起こったことを描く。ラッキーなことに、このショーはミュージカル界をリードする2人の名女優を主役に得た。グリンダ役のクリスティン・チェノウェスは堂々たる主演ぶりで、水晶のように透き通った歌声と鋭い喜劇的センスにモノを言わせている。また、イディーナ・メンゼルはエルファバという屈折したキャラクターを力強く演じ切っている。
しかし残念なことに、この2人の実力に見合ったナンバーが見当たらない。スティーヴン・シュワルツによるポップなスコアは、大げさなオーケストレーションや感傷的な歌詞が足かせとなっている。言わばユダヤ音楽の魔女版といったところだ。それでも、『Wicked』の最良の部分は大衆娯楽の醍醐味を教えてくれる。若い観客層をミュージカル・シアターの常連にするだけの魅力は充分あると言えるだろう。(Elisabeth Vincentelli, Amazon.com)